本研究は、ニホンザルの採食行動が餌の分布状況、個体の性・年齢、個体間関係などによってどう変化するかを調べ、各個体の繁殖成功度に与える影響を分析することを目的としている。そのため、まず餌の分布様式と、群れ内での各個体の性、年齢、順位、出産の有無、血縁関係などを考慮して、予備的な実験と観察をそれぞれ高崎山、幸島、屋久島で実施した。高崎山の群れでは、メスの食物摂取量と繁殖実績を調べ、順位による採食戦略と繁殖成功度の相違を分析した。これまでに、上位のメスは下位のメスに比べ繁殖成功度が高いにもかかわらず、食物摂取量には順位による違いが認められないことが判明している。現在この繁殖成功度の違いにかかわる採食上の影響を検討するため、摂取食物の栄養成分とエネルギ-収支のバランスを調べている。幸島の群れでは、一回8kgの大豆を給餌し、順位による個体の採食行動の違いを分析した。その結果、高順位個体は長時間採食を継続する傾向があるが、比較的高い採食効率を長時間維持するもの、初期は高い採食効率で競争的に食べ中盤以後は中程度の採食効率をさらに長時間維持するもの、などの個体差が認められた。また、低順位個体は、採食効率の高い餌蒔開始後の早い時間で採食を切上げる傾向のあることが判明した。屋久島では、3家系の血縁関係にあるメスとコドモ、そして血縁関係にないオス5頭から成る自然群の採食行動を観察した。その結果、1.各家系はそれぞれまとまり、互いに分かれて遊動・採食する。2.交尾期に若いメスは血縁個体から離れて遊動・採食する。3.交尾期に群れを訪問したオスは、発情メスを長時間追随し、短時間高い採食効率で採食する、等の傾向を認めることができた。今後さらに、個体の生理状態、季節による個体関係の変動、食物の種類や分布様式の変化を考慮に入れながら、本研究のテ-マを追求していくつもりである。
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