本研究はアリを研究材料とし、種および血族(同巣)の認知に体表炭化水素が関与していることを生物検定とさまざまの分離、分析結果を基に明らかにしたものである。以下に本研究で明らかになった結果とその過程をまとめておく。 (1)日本産のアリを約50種集め、その体表炭化水素の分析をおこなった。その結果ある一例を除き全ての種で種特異性が存在することを明らかにした。(2)(1)において例外として認められた、他種のヤマアリ類を奴隷として共生しているサムライアリの体表炭化水素組成が、その共生相手によって変化していることを明らかにした。またその場合サムライアリ自身はその体表炭化水素生合成能力を低下させており共生アリの体表炭化水素を一緒に住むことによって獲得していることも明らかにした。(3)アリにおいては、同じ巣の仲間の認識(同巣認識)をコロニ-臭なるものによって行われていると考えられていたがその本体は全く不明であった。しかし同種異巣のアリについてそれぞれの体表炭化水素組成比(CHP)を比較したところCHPにコロニ-特異性があることが明かとなった。この結果は調査した全ての種で認められた。ここにCHPがコロニ-臭そのものである可能性が非常に強くなった。(4)体表炭化水素組成比(CHP)の統一性に女王アリの存在が重要な意味を持っていることを明らかにした。女王アリを除去したコロニ-では働きアリ間のCHPの統一性は失われ、それは再度女王アリを戻してやる事により取り戻すことが出来た。(5)(4)における女王アリのCHP統一についての役割が、働きアリ達を集合させる核になることである事を明らかにした。(6)女王アリを欠くコロニ-でも、狭いところに多数の働きアリを閉じ込め集合状態を無理に作り出すことによって、CHPの統一は可能であった。
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