平成2年度は、造礁性サンゴの生活史を卵の形成期、放卵期、定着期、成長期、崩壊期に細分し、群集の維持機構全体を見通したフレ-ムワ-クの構築に主眼を置いた。(1)卵の形成期、放卵期については、野外で採集したサンゴの組織学的解析とともに主要種の飼育・交雑実験より産卵期、卵の形状、授精能力、交雑の可否、産卵リズムの再確認を行った。(2)定着期については室内外の定着実験の結果、天草のサンゴ群集の定着能力が再確認されたが、同時に行った沖縄のサンゴ礁域での実験結果と比べて定着量が非常に少ないことがわかった。(3)サンゴ群体を“個体"とみたてた“個体群構造"の解析から、天草では新規加入定着量は平方メ-トルあたり0.1と非常に低いものの、毎年安定して定着していることが推察された。(4)成長期についてはアリザリンレッドによる染色法、X線解析法により主要なサンゴについての年間成長量を測定した。沖縄でのサンゴの成長量と比較すると、海水温20℃以上の6ケ月間の成長量は沖縄のそれとほぼ同じであるが、20℃以下の6ケ月間は20℃を下らない沖縄の約1/3に低下した。(5)これまでの研究で、天草の造礁サンゴの死亡要因として冬期の低温と台風到来時の波浪の影響が知られていたが、同時に長期にわたる28℃以上の高温もまた一部のサンゴの白化現象を引きおこすことがわかった。(6)また、サンゴの骨格内に寄生し、サンゴの骨格形成を阻害すると考えられる骨格内埋存性動物の現存量を測定した。(7)造礁性サンゴ及び海藻との間の競争関係は一定時間間隔写真撮影法による調査を続けている。(8)以上のサンゴ群集の“個体群"動態についての調査と並行し、環境条件として水深25mまでの海底水の最高最低温度、水中照度、放卵・定着期間の流向・流速の測定を行った。(9)またマンタ法により天草下島牛深周辺のサンゴ群集の分布調査を行い、群集の被度と広がりを測定した。
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