この研究の目的は、木部細胞分化過程で現れる分化特異的な遺伝子の役割と発現調節機構を分子生物学的手法を用いて解析することにより、植物細胞分化機構解明に迫ることにある。これまでに得られた成果は次のようなものである。 1.木部分化特異的遺伝子の単離と解析:ヒャクニチソウ単離葉肉細胞から管状要素(道管・仮道管細胞)へ分化しつつある細胞(培養後48時間目の細胞)のmRNAをもとにcDNAライブラリ-を作成した。このライブラリ-を用い、分化培地、非分化培地で48時間培養した細胞からのmRNAをもとにdifferential scre eningを行った。その結果、分化特異的な遺伝子を4個単離することができた(TED1ー4)。これらの遺伝子はいずれも培養後48時間目以降急激に発現する性質をもっていた。これらの遺伝子の塩基配列を決定したところ、TED1はミトコンドリアF1ーATPaseと、TED2はモルモットのレンズタンパク質と、TED4は糊粉層特異的タンパク質との相同性が認められた。 2.遺伝子導入系の確立とTED遺伝子の導入:シロイヌナズナ、ヒャクニチソウへのアグロバクテリアを用いた遺伝子導入系を確立した。これを用いて、TED2遺伝子のセンス・アンチセンスDNAをヒャクニチソウに導入してその木部分化に対する影響を調べた。しかし、現在までのところ分化に対する影響は観察されていない。
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