研究概要 |
遺伝子の発現調節とDNAの高次構造との関係を調べるために、細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)のDNAトポイソメラーゼII遺伝子をクローン化し、その塩基配列を決定し解析した。また、遺伝子の一部を発現ベクターに組み込み、大腸菌に作らせた融合タンパク質を用いて、抗体を作製し、タンパク質レベルでのこの酵素の量の変動を調べた。 細胞性粘菌のDNAトポイソメラーゼII遺伝子を含む、約5.5Kbpの領域をクローン化し、塩基配列を決定したところ、3,849塩基からなる長いORF(読み枠)が存在し、アミノ酸配列のホモロジー解析からこのORFが1、282個のアミノ酸からなる分子量146KDaのDNAトポイソメラーゼIIをコードしていることが分かった。細胞性粘菌のこの酵素は、他の生物のこの酵素の分子量(約160-180KDa)に比べて小さかった。これは主として、アミノ酸配列のC末端部分が約250個程短いためである。アミノ酸配列を解析した結果、ATPase活性と関係する領域や、切断・再結合の触媒活性と関係する領域は他の生物のこの酵素のそれらの領域と高い相同性を有していた。この遺伝子の発現をノザンブロット法で調べたところ、発現量は少なく、poly(A)^+RNA分画を用いてようやく4.1kntの転写物を検出できた。また、サザンブロットからこの遺伝子はゲノム中に1コピー存在することがわかった。 平行して、各種の分離操作を用いてこの酵素の精製を試みたが、この酵素の存在量が少なく、また不安定なために凝集物を形成しやすい性質などのために、アミノ酸配列を決定したり抗体を作らせるのに充分な量を精製標品として得ることが出来なかった。そこで、この遺伝子の内1.9kbpにわたる部分を発現ベクターpGEXに組み込み、細胞性粘菌のこの酵素のアミノ酸配列の一部を持つ融合タンパク質として、大腸菌で発現させた。この融合タンパク質を大腸菌の封入体から変性した状態で分離精製し、ウサギに注射して抗体を得た。この抗体は細胞性粘菌の異なる系統株に対しても、約140KDa付近のタンパク質を認識したが、種や属が異なる(D.mucoroidesやPolysphondylium pallidumではそれぞれ反応しないか約220KDaの物質と反応した。ノザンブロット法から、細胞増殖において定常期に達するとこの酵素の量を少しづつ減少し、また発生が進みアメーバの集合が終わる頃にもこの酵素の量は少しづつ減少した。
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