光合成酸素発生系は、核および葉緑体DNAにコードされた光化学系IIポリペプチドが、光照射下でチラコイド膜上に分子集合することによって形成される。本研究では、ユーグレナおよびオオムギを用いて、緑化過程におけるポリプペチドの合成とチラコイド膜での蓄積の様子を生化学的、分子生物学的、形態学的手法により詳細に検討した。ユーグレナの緑化過程の初期においては、光化学系IIのアンテナクロロフィル結合タンパク質CP43/47が、その結合クロロフィルを遊離しやすいなど、複合体としてはかなり不安定で、その安定化には膜表在性の30kDaタンパク質の結合が必要であることが分かった。このことは、CP43/47と30kDaタンパク質が構造的に密接な相互作用をしていることを示唆するとともに、以前に報告した緑化過程におけるチラコイド膜での30kDaタンパク質の特異的な蓄積の遅れが酸素発生系の形成過程に及ぼす影響を具体的に示している。30kDaタンパク質は核支配のタンパク質であり、その蓄積の遅れの原因の一つは、ユーグレナ特有の葉緑体タンパク質輸送過程にあると考えられた。そこで30kDaタンパク質遺伝子のクローニングを行い、タンパク質前駆体の構造を決め、さらにそのタンパク質前駆体の輸送経路についての解析をすすめた。その結果、このタンパク質の前駆体は、高等植物の対応するタンパク質前駆体に比べて長いプレ配列をもち、その構造にも高等植物のものとは異なる特徴がみられた。また、前駆体は10分程度のhalf-timeでゆっくりとチラコイド内腔まで輸送されることが分かった。葉緑体の三重の包膜のcontact siteを電顕的に調べたところ、この部位がタンパク質輸送を律速していることが示唆された。
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