研究概要 |
好気的窒素固定能を持つ海産性浮遊ラン藻Trichodesmiumの窒素固定系の耐酸素性発現の機構を明らかにする目的で主として1.本種の窒素固定活性の制御機構、2.高い耐酸素性発現を可能にする機構として(1)光合成酸素発生系(光化学系II)を持たない窒素固定を行う特殊な細胞(ヘテロシスト)の分化、または窒素固定系の細胞内局在性の可能性(2)耐酸素性を持たない種の窒素固定酵素と異なる可能性、さらに3.本種の窒素固定活性は光依存性で窒素固定は明条件で光合成と同時に進行するが窒素固定系活性制御に及ぼす光の役割を中心に検討を行った。結果及び今後の研究展開は以下の通りである。1.本種の窒素固定活性は外から与えた窒素化合物により阻害されること、阻害は酵素の生合成・転写後修飾の2段階で調節されていること、2.(1)免疫電顕法により光化学系IIを持たない特殊な細胞は分化せずほとんどすべての細胞に窒素固定酵素が存在することを示した。窒素固定系の細胞内局在性については少なくとも光合成の場であるチラコイドの存在する部位以外に存在することを示唆する結果を得ている。(2)窒素固定酵素構造遺伝子(nifH)の塩基配列解析から少なくとも鉄蛋白は耐酸素生を持たない種の酵素と高い相同性を持つことが明らかになったが蛋白の一次構造の小さな異なりが酵素の高次構造にどのような違いを生じさせるかは今後検討を要する課題である。また鉄モリブデン蛋白の一次構造も構造遺伝子(nifD,K)の塩基配列からの解析が現在進行中である。3.光は光合成を通じて窒素固定に必要なATP・還元力を供給するだけでなく窒素固定酵素の活性維持に必要で、暗所では窒素固定酵素はすみやかに不活性型になり再活性化に光が必要であること、活性化過程には光が必要であること、活性化と活性維持に代謝回転の早い窒素固定酵素以外の蛋白が関与している可能性を見いだし、この活性維持機構が本種の耐酸素性をもたらす要因の一つであろうと考えている。今後活性化過程に関与していると考えられる蛋白の同定、窒素固定酵素の翻訳・転写レベルの制御に対する光の影響についても検討を行いたい。
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