Ohashi&Murata(1980)により、マムシグサ節のマムシグサとしてまとめられた7種類8集団、および同じくマムシグサ節に属しマムシグサに近縁と考えられるオモゴテンナンショウ(1集団)、ヒガンマムシグサ(1)ツクシマムシグサ(2)、ムロウテンナンショウ(1)について、デンプンゲル電気泳動法によりアイソザイムの分離を調べた。12酵素18遺伝子座について明瞭なバンドが検出されたので、これに基づいて遺伝的近縁度を算出した。また比較のため、アマミテンナンショウ節に属するアマミテンナンショウ、ヘンゴダマ、およびマイヅルテンナンショウ節に属するマイヅルテンナンショウとウラシマソウについても同様に調べた。この結果、マムシグサ内の8集団およびオモゴテンナンショウ、ヒガンマムシグサ、ツクシマムシグサ、ムロウテンナンショウの各集団間の遺伝的近縁度はいずれも0.88以上であった。この値は一般に知られる種内集団間レベルの近縁度0.85を上回っており、相互にきわめて近縁であることが明らかとなった。一方、アマミテンナンショウ節、マイヅルテンナンショウ節の調べた種間では遺伝的近縁度が0.65以下であり、一般の種間レベルで知られる分化の程度に達している。これらのことから、マムシグサ群では遺伝的分化が小さいにもかかわらず、外部形態的には明らかな分化が起っていると考えられる。またマムシグサ群の調べた集団間における相対的遺伝子分化の程度(GST)は平均で約0.25と大きく、分集団化を進めるような選択的淘汰の存在を示唆している。次年度はマムシグサ節に属するがマムシグサとはやや疎縁と考えられるユキモチソウ、アオテンナンショウ等に範囲を拡大して実験を行い、マムシグサ群の位置づけを行う予定である。
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