マムシグサ群の分類学的取り扱いを再検討する目的で、従来からマムシグサ群に含められていた11種類13集団、およびマムシグサ節には含められていたがマムシグサ群としては認められたことがなかったアオテンナンショウ1集団、ツクシマムシグサ2集団、及びオモゴテンナンショウ、ヒガンマムシグサ、ユモトマムシグサ各1集団についてデンプンゲル電気泳動法を用いて同位酵素の解析をおこなった。またその分化のパタ-ンを他のグル-プと比較するため、アマミテンナンショウ、ウラシマソウ、マイヅルテンナンショウ、A.tortuosumおよび熱帯地域に分布するArisaema filiforme(カリマンタン島およびジャワ島から各1集団)A.inclusum(ジャワ島産1集団)A.Iaminatum(カリマンタン島産1集団)A.grapsospadix(台湾産1集団)についても解析しその結果を日本の集団間と比較した。11酵素17遺伝子について解析して集団間の遺伝的近距離を求めた結果、マムシグサ群内の集団間ばかりでなく、アオテンナンショウ、ツクシマムシグサ及びオモゴテンナンショウとそれらの間でも遺伝的距離は0.1以下であり、形態上では明かな分化が認められるにもかかわらず、これらがきわめて近縁であることを示唆した。種内集団間の遺伝的距離はArisaema filiformeで最大0.14、ウラシマソウで最大0.44であった、これら2種は広い分布域を持っているにもかかわらず、形態的には単型的である。日本産のマムシグサ節においては逆に、遺伝的な分化の程度にくらべ形態上の分化が著しく進んでいることが示された。この結果は、日本産のマムシグサ節が比較的新しい時期に、おそらくは第4紀の氷期と間氷期によって様々な小集団が隔離された結果、形態上の多様化が起こったとする仮説によく一致する。マムシグサ群で認められる形態群は種分化がまだ十分ではなく、変種として扱うのがよいと考えられる。
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