ミカヅキモClosterium ehrenbergiiの交配群Aは本来ヘテロタリックで外交配を行う。しかし特異的な交配型遺伝子を持つマイナス株を片親に持つF_1には、プラス及びマイナスのどちらの交配型とも接合子を形成するセルフィング株が生じた。正常なプラス株及びマイナス株との交配接合子及びセルフィング接合子の3種類の接合子を発芽させ、F_1及びB_1個体の生存率、交配型及びセルフィングの性質の遺伝解析を行った。セルフィング接合子からはセルファ-のみならずプラスとマイナスのF_1子孫が生じるが生存率が非常に低いこと、マイナス株との交配接合子からはプラスとマイナス株が1対1、プラスとの交配接合子からはプラスに対してマイナスとセルファ-の合計が1対1に分離しB_1子孫の生存率はそれほど低くないことを確認した。また、セルフィングにおいて対合中の配偶子嚢を剥離し、各々のペアを再びクロ-ン培養することによって、セルフィング株のクロ-ン培養中にセルフィングの性質を保持したマイナス細胞以外に正常なマイナス及びプラスの細胞を生じることを確認した。本研究により、ヘテロタリズムを制御している対立遺伝子が酵母などで知られているような交配型転換機構によって、mt^-からmt^+に転換することによってセルフィングが起こることが明らかになった。また、本来外交配を行っているミカヅキモをセルフィングによって内交配させることによって、複相の有性生殖期にのみ働く遺伝子系に生じる突然変異が劣性有害遺伝子群として外交配の集団中に蓄積、保持されていることも示された。ヘテロタリズムからホモタリズムが派生する過程では、上記のようなmt^-からmt^+への一方向のみならず、その逆のmt^+からmt^-への交配型転換も自由に起こる機構が生じるだけでなく、どのような生態的場で外交配による遺伝的荷重から解放されるのかと言った問題が存在することが明かとなった。しかし、後者は今後の興味ある重要な研究課題と考えられる。
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