下等な同形配偶に属するクラミドモナスの観察では、雌雄の配偶子の接合直後に接合子内で、母性遺伝の直接の原因と考えられているところの、雄性配偶子由来葉緑体核はすべて消失するが、雌性配偶子由来葉緑体核はそのまま残るということが観察されている。そこで、この選択的消化、母性遺伝の頻度を細胞学的、形態学的および遺伝学的に解析した。 この母性遺伝の機構を探るためにまず、接合子形成、接合子の発芽の条件を検討した。接合子を形成させた後、雌雄葉緑体核の挙動の形態学的解析を行っている際、しばしば葉緑体当りの様緑体核の数の少ない細胞が現れることがある。これは、通常、約10個の葉緑体核は細胞の老化に伴い、いままで独立していた葉緑体核が互いに融合して数を減らし、最終的に1個になるものと考えられる。また細胞は、普通一週間の加齢で、ほぼ100%接合するが、約一ヶ月の加齢でも正常に接合することがわかった。そこで老化した配偶子を用いて接合子を形成させると、雄葉緑体核の選択的消化の開始は、配偶子形成に用いた雄ではなく雌の細胞の老化の程度がすすむほど遅れた。この事は、雌細胞は選択的消化の開始を決めていることを示している。 葉緑体の形質の指標として抗生物質の抵抗性を用いた遺伝解析による母性遺伝の頻度は、配偶子の老化による選択的消化の開始が遅れても変わらないということがわかった。 また、紫外線を変異源として用いて、葉緑体核の形態や、母性遺伝の様式の異常になる変異株の単離を行った。その結果、葉緑体当りの葉緑体核の数が正常の5倍もあり細胞が老化をしても葉緑体核が一個に収束することが非常に遅い株を分離した。この株は、4分子解析より、一遺伝子の変異を持つと思われる。また、両親性遺伝を高頻度に示すと思われる変異株を得られた。
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