研究概要 |
昆虫の脳内ニュ-ロン数は10^3〜10^4個程度であるにもかかわらず、多くの的確な行動を発現する。しかしその脳機能についてあまり知られていない。今年度は上位中枢といわれる前大脳の構造を中心に調べた。殆んどの昆虫の前大脳には,キノコ体と呼ばれる構造が見られるが,これはニュ-ロンとその繊維の集合体である。ワモンゴキブリでは良く発達し、2対の傘部をもつキノコ体を所有している。傘部のくぼみには多数のケニヨン細胞があり,前大脳背側をおおっている。傘部からは柄部が下方にのび,腹側でα葉とβ葉に分岐している。α葉は前方上部までのび,他部位からの神経繊維が入っていた。キノコ体の組織切片からコンピュ-タで形態的3次元再構成をおこない全体像を明らかにした。傘の幅:350μm,高さ400μm,柄部の長さ390μm,幅110μm,またα葉の長さ390μm等であった。脳全体に占める容積の割合は,雄雌ともに約12%であり,表面積は約1.6mn^2であった。一方微細構造の観察では,ケニヨン細胞の径は5〜7μmで,細胞体の殆んどが核によって占められ,ミトコンドリア,ゴルジ体の小器官がみられた。その軸索は数本が束になって傘部に入りこんでいた。軸索繊維は高密度で接し,複雑に交錯していた。繊維の径は0.2〜0.4mmであった。また各所にシナプス小胞がみられることから、外部からの繊維との多数のシスプス形成が推定される。柄部へは方向性をもちつつ繊維が下行した。柄部では繊維間にシナプスは見られなかった。そして約9万本の繊維が計測された。一方115個の前大脳ニュ-ロンの活動を記録できたが,性フェロモン(ペリプラノンAおよびB)刺激に対しては,顕著な興奮応答を示は例は少なく,むしろ自発活動を抑制するタイプが多く見られた。キノコ体は社会性昆虫に発達していることから,ミツバチ等のそれとの比較が望まれる。
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