研究概要 |
昆虫の脳内ニュ-ロン数は30,000ないし40,000個程度といわれているにも拘らず、外環境からの刺激に対して多くの的確な行動を発現する。しかし感覚情報の脳内における統合機構や単一ニュ-ロンレベルの情報変換機構などについてはあまり知られていない。本研究では主として前大脳の構造と嗅覚系ニュ-ロンの性フェロモンに対する活動および神経走行経路の解明を目標とした。前年度は前大脳の中心的構造であるキノコ体の微細形態、その3次元再構成をおこなった。今年度はフェロモンに応答する前大脳の下行性ニュ-ロン、両側連絡ニュ-ロンの活動およびそれによって駆動されるはばたき行動について解析した。下行性ニュ-ロンは匂い刺激終了後も興奮が続く長期興奮応答(LLE)をするものが多くみられた。このパタ-ンは中大脳では全くみられなかった。。このニュ-ロンの細胞体(直径25um)は前大脳中央部に存在し、樹状突起は同側の前大脳神経(LAL)とその周辺にあった。主繊維は、LAL連絡を介して対側のLALに延び、そこでは内部に顆粒をつけた分枝がみられた。さらに食道下神経節(SOG)を通って繊維を腹随神経索を経て胸部神経節にまで下行させていた。両側連絡ニュ-ロンは、長い繊維をもたず左右に比較的大きい樹状突起をもっており、フェロモンに長期応答を示した。一方カイコガを使ったフェロモン源への定位行動の解析では、匂い刺激で実験例中98.5%がはばたきを開始した。刺激を頻度2Hzで与えると、風上に向かってほぼ直線的に歩行した。頻度を下げると体を左右に振りながらジグザグ歩行した。ジグザグは初めに刺激された触角側に回転することで開始され、これは内因性リズムに起因すると同時にはばたきを起こす運動神経と筋の活動に、左右で位相差が現れることがわかった。そして運動系の活動は下行性ニュ-ロンの長期興奮応答の情報によってゲ-トされ、はばたきがおこり、ジグザグ行動を通して匂い源に定位することが明らかになった。
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