1.MaATP^<2->で活性化すると、生きている精子と同じように運動するゴ-ルデンハムスタ-の除膜精子、いわゆる"鞭毛モデル"を作成する方法を開発した。この鞭毛モデルのカルシウムに対する影響を調べたところ、鞭毛の作る屈曲波の振幅、鞭毛波の非対称性などの他に、精子の長軸の回りの回転運動やカバ-ガラス直下でみられる回転運動の向きもカルシウム濃度によって変化することが明らかになった。ウニなど海産動物の精子とは異なり、ゴ-ルデンハムスタ-の精子では、ほとんどの精子が、頭部から見て反時計回りに回転したので、哺乳動物の精子と海産動物の精子とでは、本来細胞内カルシウム濃度が異なるに違いない。このカルシウムによる回転方向の変化は鞭毛運動の三次元的な形態がカルシウムによって変わることを強く示唆している。 2.除膜精子をさらにDTTで処理し中片部のミトコンドリアを除去した後トリプシンを作用させ、さらにエネルギ-であるMgATP^<2->を加えると、周辺微小管が周辺束繊維と共に滑り出し、ル-プを形成するのが観察された。この滑りの様子から求めた精巣上体尾部精子の周辺微小管の滑り速度は毎秒8μmであった。溶液中のカルシウム濃度を変えて滑り速度を測定したが、コントロ-ルと比べて余り大きな変化はみられなかった。 3.ハムスタ-の精細胞、精巣精子、そして精巣上体頭部精子は、生理食塩水中に希釈してもあまり運動を示さない。これらの鞭毛モデルを作成しMgATP^<2->を加えると運動することから、精子の運動装置は完成していると推理できる。この説をさらに検証するために、これら細胞の鞭毛モデルを作り、DTTとトリプシンで処理し、これらの周辺微小管の滑り速度を決定したところ、滑り速度に差はみられず、上記の説を支持する結果となった。
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