研究概要 |
ゾウリムシの多成分系ヘモグロビン(Hb)の成分構成は条件によって変動するか否か、またHb成分およびその遺伝子はどのような構造を持つか、について次のような結果を得た。 3種6株のゾウリムシについて、1)同一温度では対数期と定常期で、同一成長期では培養温度によりHb成分の量的構成が変動する、2)変動するのは主成分と副主成分で他の微量成分は殆ど変化しない、3)主成分は副主成分より分子量が小さく、PAGEにおける移動度は大で、等電点は低い、4)成長依存性変化の場合も温度依存性変化の場合も主成分量が増せがほぼそれに見合った量の副主成分が減じ、前者が減れば後者が増えて両者は互いに逆方向に増減するから細胞当たりのHb総量は方わらない、こと等を確かめた。 また、P.caudatumの5同胞種15株のHb主成分の等電点はpH3.9近辺にありA,B,A+Bの三型が存在すること、副成分bHbの等電点はpH9.8ー10.5を示し四成分に分けられること、および、これらの成分分布には種特異性が認められず総ての同胞種の間に独立して様々な組み合わせで存在すること、を明らかにした。 次いで、ゾウリムシのHb主成分、A型Hb10をコ-ドするcDNAの全塩基配列を明らかにし、この塩基配列から推定した116個のアミノ酸配列はタンパク質側から解析して報告された一次構造と完全に一致することを確認した。また、B型Hb10はA型から5個のアミノ酸残基が置換されて生じたものであることが明らかになった。 一方、ゾウリムシにおけるゲノムのHb遺伝子は翻訳領域のほぼ中央に23塩基対からなる極めて短いイントロンを一個持つことを発見した。従来、ゲノムHb遺伝子に存在するイントロンは、植物では3個、動物では0ー2個で、動物では植物側の第2イントロンに相当するものは欠けている、とされて来た。しかし、我々が見いだしたゾウリムシのイントロンは、他の動物では欠失してしまった第2イントロンに相当すると考えられ、また、現在までに報告されたどのイントロンよりも小さいことから、系統進化の過程で退化しつつあるものと推定した。
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