研究概要 |
オスコオロギは交尾により精包を放出すると直ちにそれまでの求愛から威嚇行動へと転じる。この行動切り替えの神経機構を明らかにするのが本研究の目的である。そこで,まず精包放出を境にして,これに関わる腹部最終神経節から発する上行性ニュ-ロンの活動がどのように変化するかを調べた。除脳標本の頚部縦連合より細胞外スパイク記録を行ったところ,放出前は多くのニュ-ロンが高頻度の発火をしていたが,放出後約5ー10分間は発火の停止が生じた。その後活動は回復したが,放出前のレベルには達しなかった。したがって,この低レベルとなった上行性の活動が精包放出情報を脳に伝えている可能性は大きい。一方,これら神経活動に影響を与えると思われる生体アミンやアミノ酸の効果をテストした。投与は性周期の各時期1)交尾前,2)交尾後,3)精包準備行動後に行った。オクトパミンは1)と2)の段階のオスの交尾反応を有意に増強させ,セロトニンとGABAは逆の効果を示した。また,後者の2つは3)の段階で投与すると,交尾後約1時間の交尾不応期間を延長させる効果があった。この外にセロトニンニュ-ロンの毒である5ー7DHTを脱皮直後のオスに投与し,セロトニンニュ-ロンが死滅したと思われる10日後に交尾反応性のテストを行ったところ,交尾反応は本来1時間の抑制時期にも65%のオスでみられた。このことはセロトニンが交尾不応期の形成になんらかの関与を行っていることを示唆している。したがって,これら薬物の投与によるニュ-ロン活動の変化を直接記録中に調べてみる必要が生じた。また,脳の機能を可逆的に遮断できる冷却法を併用し,これによって精包放出後の上向性ニュ-ロンの活動変化を調べる必要がある。これによって交尾反応性の低下に直接関係したスパイク活動を抽出できると考えている。
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