研究概要 |
ナミアゲハ複眼における3ヒドロキシレチナ-ルの生合成 近年、蝶などの一部の無脊椎物動の視物質発色団が3ヒドロキシレチナ-ル(ビタミンA3アルデヒド)である事が報告された。蝶の視物質には光を受けた後、退色するという他の無脊椎動物とは異なった特色があり、この分子機構を明かにするために、蝶の複眼内の3ヒドロキシレチノイドの代謝を明かにした。また蝶の複眼には多量の3ヒドロキシレチナ-ルが光受容膜以外の所に存在している事が示唆されている。 今回の研究では、明順応または暗順応したナミアゲハ複眼のホモジナイズを遠心し(25,000xg 30min,100,000xg 60min)、上清(サイトゾ-ル分画)にある3ヒドロキシレチノイドを高速液体クロマトグラフィ-により測定した。その結果、サイトゾ-ル(膜分画を含まない)には、複眼全体の25ー30%の3ヒドロキシレチナ-ルと全体の72ー80%の3ヒドロキシレチノ-ル(ビタミンA3アルコ-ル)が含まれていた。次に明順応しているアゲハ複眼のサイトゾ-ルを暗保すると、11ーcisとallーtrans3ヒドロキシレチナ-ルがそれぞれ2.4倍,1.6倍に増加し、また、青色光を照射した後では、それぞれが3.5倍,2.0倍に増加している事がわかった。この新しく合成された3ヒドロキシレチナ-ルの前駆体が3ヒドロキシレチノ-ル(ビタミンA3アルコ-ル)であるか、否かを調べるため、ビタミンA1アルコ-ル(レチノ-ル)がビタミンA1アルデヒド(レチナ-ル)にこのサイトゾ-ル内で変換されるかを調べた。その結果、レチノ-ル(11ーcis又はallーtrans)をナミアゲハ複眼のサイトゾ-ル内に加え暗保したり、青色光を与えておくとレチナ-ル(11ーcis,allーtrans)というビタミンA1アルデヒドが生合成されてきた。 以上の事から、ナミアゲハ複眼のサイトゾ-ルにはビタミンA3アルコ-ルからビタミンA3アルデヒド(3ヒドロキシレチナ-ル)に変換する仕組みがあり、この仕組みは青色光により促進される。
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