小鳥の歌は、液体から結晶ができるように、無形状態から次第に形が現れてくる。幼鳥のころは餌をねだる声や警戒音などの地鳴きしか出さないが、若鳥になると、それが次第に小囀になる。若鳥が性成熟してくると、句の形が徐々に固まり、二、三の句を節として歌うようになる。しかしその頃の歌はまだ変る可能性がある。鳥がさらに成長すると、句の形も節の内容も歌全体の構造も固まる。この現象を歌の結晶化という。結晶した歌は、キンカンチョウやジャウシマツでは、一生変化しない。これらの歌形成は、脳の聴覚系と発声系の神経系の働きと関係している。ホルモンの働きとしては、テストステロンの分泌があり、これが発声系の神経核の発達に働きかけていることが知られている。この時バソトイン(AVT)は、テストステロンの存在下で、神経調節機能として作用していることが予測される。本実験では、フィンチ類のキンカチョウとジュウシマツの成鳥を材料として、発声系と聴覚系におけるAVTの動態について、形態学的に免疫組織化学的方法によって調べた。 フィンチ類の性行動は、雄の歌と番形成である。それらの行動発現は、鳥が成鳥になったことを示す。したがって番形成を指標として、(1)雌雄二羽の番形成ができた3日後、雄の脳室内にAVTを注入し、その脳内の動態を調べた。(2)無作為に選んだ雄の脳室内にAVTを注入し、無作為に選んだ雌とともに同じケ-ジに入れて一晩観察した後、それら雌雄の脳内でのAVTの動態を調べた。(1)、(2)について記録するとともに、組織化学的方法によって調べた。以上の結果から、AVT感受する神経細胞と繊維は、キンカンチョウとジュウシマツの成鳥雄のHVc核、RA核の周辺部および視床下部、終脳部に存在していた。成鳥雌ではRA核とHVc核ではみられず、終脳部では雄に比べて量的に少なかった。また雌の視床下部では雄同様にAVT細胞と繊維はみられた。
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