本研究では、日高帯北部の緑色岩帯を主に調査・研究すると共に、四万十帯の緑色岩体についても比較検討を行なった。本研究の三年間の主な成果を以下に要約する。 1.日高帯の下川岩体、ルロチ岩体、四万十帯の竜神層・槙峰層・牟岐層などの緑色岩体に関する地質調査、火成岩・変成岩岩石学的記載を実施した。その結果、これらの岩体はいずれもチャートや石灰岩などの遠洋性堆積物を伴わず、陸源砕屑物を大量に伴うことが明かとなった。また、周囲の堆積岩にたいして、貫入もしくは噴出している関係が確認された。 2.これらの緑色岩類に関する全岩化学組成・微量成分組成にかんする化学分析を実施した。その結果、これらはいずれもN-MORBとしての地球化学的性格を有することが明かとなった。 3.EPMAを用いた鉱物分析は下川岩体の玄武岩やドレライトについて実施した。その結果、下川岩体の火成鉱物の組成的特徴は、島弧玄武岩や海洋島玄武岩などのそれとは明瞭に異なっており、海嶺玄武岩のそれと類似した特徴を有していることが明かとなった。また、単斜輝石や斜長石には様々な異帯構造が見いだされ、マグマ混合やマグマ中に生じた物理条件の急変(マグマの急速な上昇)など、マグマの固結プロセスが解明する基礎が整った。 4.こうした検討結果、これらの緑色岩体が厚い未固結堆積岩が集積する場で噴出・貫入したN-MORBタイプの火成活動による産物であることが明確となった。これらは、白亜紀-古第三紀にかけてユーラシア大陸の緑辺を通過したクラー太平洋海嶺が海溝に接近・到達したときに形成されたものとみなされることを、その時代的変化から明らかにした。
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