研究概要 |
琉球大学海洋学科の乗船実習により琉球弧周辺の海域から22本のコアを得ている。過去約32万年前に達するコアなど、後期第四紀を通じての古海洋環境変動に関する連続的記録が求められる。1)コアに含まれるプランクトン性有孔虫の石灰質殻を用いた安定酸素同位体比の変動は、ミランコヴィッチの太陽輻射量変動と良く一致する。つまり千年オーダーでコアの各部位の年代を決めることができる。酸素同位体層序からナンノプランクトン群集の時代変化に関する2 events の時代を再査定し、姶良火山灰層は2.3万年前、阿多火山灰層は9.5万年前と決定できた。阿多火山灰が石垣島南方沖まで分布するのは、その噴火が間氷河期であったため、黒潮の反流によって運ばれたと考えた。一方、姶良火山灰の分布が極く限られているのは、最終氷期の最盛期のために南琉球弧が陸橋となって黒潮の沖縄トラフへの流入を妨げ、反流が生じなかったためと推論した。2)大洋表層水の下半部に選択的に棲息するナンノプランクトンの一種、Florisphaera profundaの産出頻度の変化が海水の透明度ないし懸濁度の変動に対応していることが示唆された。3)石垣島南方沖の急崖の麓、水深約2,400mの地点で採取した乱泥流堆積物コアの酸素同位体年代と、乳遊性有孔虫殻を用いた加速器質量分析計による炭素14年代測定結果から、乱泥流の発生が約1万年以降から急増した(つまり平均して約1,200年に1度の割合)点が推定された。陸橋を成していた南琉球弧は、沖縄トラフの拡大に伴い断続的に傾動隆起しながら現在の位置に達したと推論した。4)沖縄トラフ内では最終氷期から現在に至る期間に2回の淡水大量流入があった点、琉球弧の外側海溝斜面下にかなりのスピードの底層流が存在する可能性、五島海盆西縁からのコアに縄文海退や弥生海退などに伴う陸源植物の流入が認められるなど、多くの新事実を明らかにしつつある。
|