研究概要 |
今年度は常磐炭田地域と北海道歌登地域の野外地質調査を実施し,化石資料の収集に努めた。北海道の野外調査では効率化をはかるため大学院研究生(1名)の調査補助を受けた。常磐炭田地域では初期中新世に寒冷系の貝類が南下した事件が予想されているので,これを検証するために,平市付近の五安・中山層の貝類を検討した。しかし,明白な証拠は得られず,更に検討する必要がある。 本年度で成果が得られたのは北海道歌登地域の新第三系に関する年代決定である。この地域の志美宇丹層から初めて珪藻化石を検出し,これがCoscinodiscus yabeiーDenticulopsis dimorpha帯に相当することが明らかとなり,本層がカムチャッカ半島のエトロン層中・上部に対比されることとなる。昨年度来得られていたタチカラウシナイ層に関する年代が中期中新世中期で,カムチャッカでのカケルト層〜エトロン層下部に対比していた事をより確実にする結果が得られたこととなる。また志美宇丹層から相当量の貝化石新資料を得ることができたが,その中にカムチャッカ半島で記載されていたMizuhopecten slodokevitsch Sinelinikovaが含まれていることを確かめた。これらの資料により,北海道とカムチャッカ半島の新第三系の対比・貝類化石群の変遷がより確実に比較できることになった。 新生代の古気候・古海中気房の解釈に関連して,本研究の課題である寒冷系貝類の認識論の基礎となる問題について,日本古生物学会1992年年会(九州大学)で「新生代化石生物温度計の試みーその論理と適用ー」をテ-マにシンポジウムを企画開催し,異なる多くのタクサの研究者と意見交換ができた。特に寒冷(亜寒帯・寒帯など)気候をどのように過去の生物相に適用解釈してゆくかの問題点が整理できたと考えている。
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