研究概要 |
平成2-3年度の成果を踏まえ、平成4年度は北海道新生代の年代層序とその貝類化石の構成種属の最終的検討を行った。特に歌登町周辺の天北地域と羽幌-築別地域を対象として、大学院学生の補助を得ながら浅海性貝類化石含有層の年代を珪藻化石層序から検討した。その結果、従来鮮新世とされてきた統志美宇丹層の年代が中期中新世中期から後期中新世初期に相当する新事実を得た。同時に天北地域の中新統にはDosinia,Anadara,Olive-lla属などの中間温帯系種属が存在し、これに冷温系種属が混在している事が判明した。 浅海性貝類に基づく海洋気候(海中気候)の復元にはその基準となる海洋気候区分が必要とされてきたが、本研究で本邦近海から北太平洋地域に分布する現生貝類の地理的・水温的分布を整理検討した結果、その基準となるべき温度条件の明確な気候区分が設定できた。即ち、寒冷系とは基本的に亜寒帯と寒帯にその分布が限られる種属を基準にする事、温帯には暖温帯、中間温帯、冷温帯の三つの区分が適切である事、更にこれらの気候帯には特有な浅海性貝類種属が存在する事などを明らかにした。 これらの基準を本邦新第三紀の浅海性貝類化石群に適用した結果、亜寒帯海洋気候の出現は後期鮮新世から初期更新世の北海道瀬棚層中に認められる事が判明し、従来考えられてきた鮮新世竜ノ口動物群は冷温帯気候下で繁栄したと解釈すべきである。これらの寒冷系貝類の成立には、第四紀の海水温低下に伴う海水準降下に対応して日本海やオホーツク海などの北に開いた縁海が、その進化適応に大きな場を提供したことが考えられる。
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