研究概要 |
生物啓炭酸塩試料のウラン系列年代測定法においては,〔^<230>Th/^<234>U〕ー〔^<234>U/^<238>U〕および〔^<230>Th/^<234>U〕ー〔^<231>Pa/^<235>U〕コンコ-ディアの利用が,それぞれの同位体比(放射能比)に基づく年代値の信頼性評価に極めて有効である。それは,硬組織試料の続成変質が,ウラン・トリウム・プロトアクチニウム3元素に全く同じ影響を及ぼさないと考えられるためである。すなわち,同位体分析結果が両コンコ-ディアと矛盾しなければ,その試料が^<230>Th/^<234>U・^<234>U/^<238>Uや^<231>Pa/^<235>U法にとって最適の試料と判断できる。 本研究では,昨年,南大東島産の鉱物組成や^<232>Thおよび^<238>U量などから続成変質を被っていないと判断されたPorites lutea群体化石から得た結果(同一群体にも拘わらず,分析試料採取部位の違いで,117±3〜137±4kaと測定誤差を越える年代幅が得られた)に基づき,まず〔^<230>Th/^<234>U〕ー〔^<234>U/^<238>U〕コンコ-ディアを用いて検討した結果,(^<234>U/^<238>U)_0値として,現在の平均海水の同比(1.144±0.002;Chenet al.,1986)が利用できないとの結論に達した。そこで,南西琉球与那国島の琉球石炭岩から採集した多数の礁性サンゴ化石について検討したところ,Ku et al.(1990)によって議論された続成変質に伴うウラン同位体組成の再編成以外にも,13および21万年前の地球規模の温暖期における海水中の^<234>U/^<238>U放射能化が,現在より1〜2%高かったことが議論できる結果を得た。すなわち,過去数十万年間において,海洋中のウラン同位組成が時系列的に変化してきたと考えても矛盾はなさそうである。 喜界島の琉球石灰岩産サンゴ試料への〔^<230>Th/^<234>U〕ー〔^<231>Pa/^<235>U〕コンコ-ディアの適用では,同島においてこれまで不明だった21万年前の礁性堆積物が、一つのrockーあるいはtimeーStratigraphic unitとして識別できないにしても,少なくとも場所によっては中部更新統の一部として存在することが確認された。それは,コンコ-ディア上に“discordia"が定義できたためで,それによって,一部続成変質されたサンゴ化石の死亡年代と変質年代が同時に求められたことになる。本研究の発展により,従来信頼できる年代が得られなかった軟体動物殻(条件を満足する材料であれば)にも,ウラン系列年代測定法を適用できる可能性が高まってきた。
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