研究概要 |
白亜紀のセノマニアン期とチュ-ロニアン期の境界時に海洋に無酸素水が発生し、世界的に広がり、バックグラウンド以上の絶滅率をもたらした事は今日広く知られるに至った。しかし、これまで大西洋、テチス海、ボレアル海に於いてのみ確認され、太平洋でも同事変が生じたのか、その影響はなかったのか不明であった。 今回、アンモナイト類及びイノラムス科二枚貝類の垂直分布、生痕相及び堆積相の垂直的変化、頁岩中の硫化物体硫黄の含有量の垂直的変化を詳細に分析した。その結果、これらの分析項目はすべて調和的に、セノマニアン・チュ-ロニアン両期境界時に北西太平洋に於いても海洋水のある範囲に於いて酸素欠乏状態であった事を示した。 即ち、硫化物体硫黄はC/T境界部周辺で高い含有率を示し、従来の硫黄挙動に関する地球化学的研究から、当時の海底付近が還元的環境であった事がわかる。アンモナイト類、イノセラムス類共にC/T境界部を挟んで50mほどは産出しない。しかも、階境界であるから当然であるが、境界部位後は産出する種類が異なり、それ以前の種類は絶滅するか系統的種分化を遂げている。生痕相は、C/T境界部の中でも硫黄の含有率に高いピ-クが認められた層準付近でNo ichinia相となり,海底に生物が生息できなかった状態であった事を示し,上記の観察と分析結果によく一致する.堆積相は,全体には砂岩頁岩互層であり,硫黄含有率が高く,No ichniaであるところでは,薄いラミナが破壊されずに保存されている. このように,全ての結果を通じて,C/T境界時に蝦夷層群を堆積した前弧海盆で酸素欠乏の状態が生じたことを証明することができた.
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