研究概要 |
津山盆地の男山(おんやま)アルカリ玄武岩中の捕獲岩を記載し、他他域との比較をすることによって日本列島下の上部マントルの一般的性質の把握を試みた。男山の捕獲岩の全体的特徴は、レ-ルゾライトが卓越し(捕獲岩全体の70%を占め)、ダナイトが極めて希である(実際には未発見)ことである。男山レ-ルゾライトは、岩石学的性質が極めて均一で、かんらん石のFo値は89ー90、クロムスピネルのCr♯(Cr/(Cr+Al)原子比)は0.1ー0.2である。しかも、これらの値は、日本列島の上部マントルかんらん岩としては、最も低い部類に属する。パイロライト的なレ-ルゾライトは、かんらん石の組成がFo=88ー89、クロムスピネルのCr♯は0.08前後である(Arai,1987)ので、男山のレ-ルゾライトの枯渇度はかなり低いといえる。日本列島下の上部マントルかんらん岩における枯渇度の多様性は、相伴う集積岩(特に、ダナイト)の多少によるように思える。すなわち、ダナイトを初めとする集積岩捕獲岩を伴う場合、マントルかんらん岩は、高Cr♯のスピネルを有するレ-ルゾライトまたはハルツバ-ジャイトを必ず含む(黒瀬、野山岳、荒戸山、新宮)。これは、最近の、アルプス型上部マントルかんらん岩体における観察事実と調和的である(例えば、Nicolas,1989;Takahashi,1991)。既知の日本列島産の一連の上部マントルかんらん岩では、男山のものが最も枯渇度が低い。したがって、西南日本弧の上部マントルは、かんらん岩の岩石学的性質の水平方向の不均質性が著しい。東北日本弧では、新たに渡島大島において、ハルツバ-ジャイト(Fo=91,Cr♯=0.5)捕獲岩が発見された。これにより、背弧側の上部マントルにかなり枯渇度のたかいかんらん岩が存在することが明らかになった。目潟においても、一の目潟と三の目潟のかんらん岩捕獲岩の違い(含水度、枯渇度)が明白になり、やはり著しい上部マントルの不均質性が確認された。
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