研究概要 |
SiO_2の高密度の多形を求めて、分子動力学計算法により、つぎの計算機実験を行った。経験的(MSー1:松井と松井正典,1988)、および非経験的(TNM:常行たち,1989)ポテンシャルを採用し、Wyckoff(1964)の集成したすべてのMX_2型およびM_2X型構造ならびにこの集成以後発見された構造につき、Si,Oのポテンシャルを与えて高圧力(200GPaまで)を加えた場合、どのような構造に落ちつくかを調べる。その結果、SiO_2において、1)ルチル型(stishoviteとして既知)、2)αーPbO_2型(stishoviteより高密度と推定されるが未確認)、3)塩化ヒドラジニウム型(筆者たち(松井と松井,1988;Parkたち,1988)によって計算機実験的には既知、ただし、165GPa以下ではルチル型の方が安定)、斜方晶系ZrO_2(大高たち,1990)の4種が最終的に高密度な原子配置であることが知られた。しかし、4)は0ー0距離に無理があるため、エネルギ-的にも不利で、密度において2)の持つ記録を更新する化合物は発見できなかった。 ルチル型SiO_2は、理論と計算機実験によれば約100GPaより高い圧力下では格子力学的に不安定で、CaCl_2構造に転移する。この転移は2次もしくはそれ以上の高次の相転移で、高圧相は常圧下で回収はできない。この転移の際、系がきわめて特異なふるまいを見せることが上述の一連の計算機実験において発見され、研究の重点はこの現象の解明に切り換えられた(松井と常行,1992;山田たち,1992)。 ルチル型SiO_2は、約100GPaでshear modulusがゼロに急落する。しかし酸素イオンのパッキングはほぼ最密であるため、結晶の崩壊はおきない。この圧力から約10GPaに達する“格子力学的に保証されないルチル型の安定領域"が存在し、最終的にCaCl_2構造が真の安定相となる。この“不安定な安定性"は、より普遍的に存在する現象かも知れない。
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