上記の研究課題を達成するために、北海道神居古潭帯と四国三波川帯の野外調査を行ない、変成塩基性岩の産状観察と試料採取を行なった。更に、採取試料の薄片観察と全岩化学組成(主要・微量元素及び希土類元素の合計31元素組成)の定量分析を行なった。その結果、以下のような成果を得た。 北海道神居古潭帯:変成塩基性岩の多くは原岩構造を良く残しており、枕状溶岩の占める割合いが非常に多い。これらの変成塩基性岩はいずれも泥質岩中のブロックとして産出し、いわゆるメランジェを構成している。化学分析の結果、変成塩基性岩の多くは海洋底の中の海台型の特徴を有していることが明らかになった。更に、少量ではあるが海山型の試料も認められた。以上のことから、神居古潭帯の変成塩基性岩の原岩は、海洋底の中の海山と海台の複合体であったことが推定できる。 四国三波川帯:変成塩基性岩の多くは一般に原岩形成時の構造を保持していないが、一部地域では積み重なった枕状溶岩や孤立した枕状溶岩や角レキ化した枕状溶岩などの原岩構造が認められた。また、これらの変成塩基性岩は周囲に分布する堆積岩類とは整合的に産出する。化学分析の結果、変成塩基性岩の多くは背弧海盆型の特徴を有することが明らかとなった。特に層序的に下位に産出する変成塩基性岩ほど背弧海盆の基盤の岩石に類似している。以上のことから、三波川帯の変成塩基性岩の原岩は、今日のフィリッピン海のような背弧海盆で形成された可能性が極めて大きい。 まとめ:本研究で明らかになった2つの高圧変成帯での原岩形成場の違いは、変成条件(特に温度条件)の違いと関連していることが考えられる。このことは、恐らく、沈み込む海洋底が緩たかい場合(三波川帯)と冷たい場合(神居古潭帯)に関連・対応しているのであろう。
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