1)反応帯の記載的研究に関しては、長崎県西彼杵変成岩類中の蛇紋岩と結晶片岩の間に形成されている滑石・緑泥石・アクチノ閃石・ドロマイトからなる反応帯、並びに蛇紋岩中に発達する数種の複合脈(緑泥石・透閃石複合脈、緑泥石・滑石・透閃石複合脈、透輝石・グランダイト・緑滑石複合脈)の調査とサンプリングを完了した。また実験との対応が行いやすい、緑泥石・透閃石複合脈と緑泥石・滑石・透閃石複合脈についてEPMA分析を含めた岩石学的記載を完了した。 2)反応拡散系の数値プログラムの開発は現在8割程度の完成度である。既に開発済みのプログラムに浸透流項や反応に伴う孔隙率の変化を考慮した機能を追加した。広島大学星野健一氏との討論によって、局所平衡を仮定した場合には孔隙率の変化に伴う逆浸透流の発生によって、系は直ちに定常状態に達し、反応帯の成長が停止する事が明らかになった。このため、局所平衡を仮定せず、かつ任意性の少ない解法を検討している。このような問題の発生しない近似解法(孔隙率一定の場合)ではいくつかの反応帯についてよく似た累帯配列を得ることに成功した。 3)実験的シミュレ-ションの基礎的デ-タである鉱物の溶解度については、これまでに行ったNA_2OーAl_2O_3ーSiO_2ーH_2OーHCl系における曹長石の溶解度のデ-タを解析し、平衡定数を決定した。また溶液中の化学種として中性種のみならずイオン種の存在が無視できないことが分かった。 4)この研究の応用として、沈み込み帯における蛇紋岩の脱水反応のカイネティクスの研究から、上部マントルにおける水の移動と2重深発地震面の形成、マグマ発生についての新しいモデルを発表した。
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