研究概要 |
南米ペル-のプレインカ時代の人骨の研究は,モンゴロイドの立成,拡散,小進化の研究を進展される上で重要である.本年度は,昨年に引き続き新潟大学保管のチャンカイ遺跡人骨(以下,チャンカイ人)約140体分についてX線撮影,モアレ縞撮影,写真撮影を行った.最終的なデ-タの統計学的分析は,頭蓋,体幹,体肢骨および歯毎に各分任者が担当し,一部を除いてほぼ終了した.その結果については学会で随時発表してきた.チャンカイ人には高率で脳頭蓋の人工変形がみられるが,変形頭蓋と非変形頭蓋を比較してみると,計測的形質では,脳頭蓋の大分部の項目に高い有意差が認められたが,顔面頭蓋にはごく一部を除いて有意差は認められなかった.一方,非計測的形質36項目ではほとんど有意差は認められなかった.この結果を踏まえて,特に解析の進んでいる計測値から頭蓋の形質を大きく位置づけてみると,チャンカイ人は明らかにモンゴロイド集団の中に含まれ,とりわけ東アジアの集団の中ではアイヌ、縄文時代人と比較的近く,どちらかというと古いタイプのモンゴロイドの特徴が現れている.しかし,歯の形質から得られる結果は,むしろ,新モンゴロイド的ないしTurnerのいうSinodontyの傾向が現れており,頭蓋と歯は各々独立した,相対する特徴の表出がみられる.この点についての解釈には,まもなく解析の終わる非計測形質からの位置づけの結果が待たれるが,いずれにせよ多少時間をかけた慎重な考察が必要と思われる.なお,頭蓋および体幹・体肢骨ともに同じペル-原住民人の中でも,低地と高地の住み分けによる地域間の差が認められる.この事は環境要因による影響が骨格全体に現れていることを意味し,興味深いことはあるが人種を論ずる際には留意すべき点となろう.各分担者による頭蓋,体幹・体肢骨および歯の個々のデ-タをまとめた総括的なチャンカイ人の形質的な位置づけについては目下解析考察中である.
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