研究概要 |
新潟大学医学部に保管される,ペルーChancay遺跡(プレインカ時代)出土の人骨資料(以下チャンカイ人)はモンゴロイド集団の成立,拡散および適応に関する疑問を解くために有用な一大コレクションである。本資料の頭蓋,体幹・体肢骨および歯について形態学的および人類学的見地から詳細に調査がなされた。 資料には,男約60%,女約50%の割合で人工変頭蓋が認められる。脳頭蓋へ加えられた変形操作は,顔面頭蓋にも特に鼻部を中心にした計測値のいくつかに影響を及ぼすことが明らかになった。一方,頭蓋の非計測的特徴(頭蓋小変異)の出現頻度には頭蓋変形による影響はまったく認められなかった。顔面平坦度など計測値は,アイヌや新石器時代人である日本の縄文人と比較的近く,古いタイプのモンゴロイドの特徴が現われている。また,頭蓋や体肢骨などの計測値には,低地住民であるチャンカイ人と同じペルーの高地住民の間に明かな差異が認められた。これらの現象は計測学的形質に対する生活環境要因の強い関与を示唆するものである。これに対し,頭蓋小変異の出現頻度の比較分析では北米インディアンや東北アジアの集団に近似し,アイヌや縄文人とは遠く離れていることや,さらに歯の非計測学的形質の出現頻度にはTurnerのいうSinodont的な色彩が濃厚にみられることなどから,チャンカイ人は新モンゴロイドの系統に属するとほぼ結論できる。その他興味深い所見として,四肢長骨のプロポーションでは遠位の部分が相対的に長いこと,上腕骨,大腿骨骨体上部および脛骨の扁平性が強いことなどが明らかにされた。これらは日本の新石器時代の縄文人にも同様に観察される所見であり,骨格の形質と環境的要因の関係を解明するうえで貴重なデータとなろう。
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