カラタチゴケ属地衣類のうち、日本及び南米産の資料を中心に各種類毎の化学的変異群の有無と変異型を調べ、化学的変異と種分化の関連について検討を行った。調査した種類は日本産30種類、外国産182種類である。地衣体の空洞となるFistularia亜属に属する12種類は、1-2種類の化学的変異株を含むものが大多数であり、本亜属で最も一般的な化学変異はデプシドのセッカ酸とジバリカート酸が置き変わるいわゆる置換型であった。デプシドのサラチン酸やノルスチクチン酸は種を特徴つける形質との関連は少なく、付随成分として存在することが多いが、これらを常成分とする種類もある。また、デプシド、デプシドーンを全く欠く種類は存在しなかった。一方、地衣体が充実するMyeolopoea亜属ではデプシド、デプシドン、脂肪酸系の成分を中心に同一種の中に3-5種類の化学的変異株を含むものが多数見つかった。また、地衣成分を含まない種類が15種類あることも確認された。Myeolopoea亜属の変異型は置換型、付加型、ケモシンドローム型など様々である。特にR.usneaでは11種類以上の化学変異株が確認され、デプシドデプシドンの存在様式はケモシンドローム型であったが、脂肪酸を単独で含むものも存在する。また、化学的変異株の内、脂肪酸を含むものは西インド諸島を中心に分布する。 子器や地衣体の内部構造の特徴は本属の分類や系統を考える上で非常に重要であることが明らかになった。特に地衣体の皮層下部に発達する軟骨状組織は、菌糸束状に分裂するものと全く分裂しないものがあり、Fistularia亜属では全ての種類が非分裂型の軟骨状組織を、Myeolopoea亜属は分裂型と非分裂型の両者を持つ種類が存在するが、同一種類内ではこの組織の型は一定している。このように軟骨状組織の分化と配列様式は本属と近縁属との関連を考察する上で重要な形質と考えられる。
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