研究概要 |
ヒマラヤ系の鱗翅類が多く生息する照葉樹林で冬期に活動するものを沖縄島と奄美大島で調査し、また、春季に八重山諸島で調査した。調査は、夜間、発電機を用いるライト・トラップで蛾を誘引・採集し、また、採卵したり、幼虫を探索し、寄主植物や生活史などの生態的知見も得ている。採集した蛾は乾燥標本にし、必要なデ-タを記した小型ラベルを付し、ドイツ型標本箱に入れ、昆虫標本戸棚に整理収納している。冬期のものは標本の作製を終り、必要な解剖を行ない、国内外の近縁種と比較しながら分類学的検討を行なっているが、八重山のものはこれからその作業を行なう。 研究の成果としては、これまで研究を進めてきたイワアツバ属(ヤガ科)の知見を発表した(Owada,1991).この属はヒマラヤの北東部にあたる中国西南部に数種が知られ、最近日本でも発見されていたものであるが、新種であることが判明した。この種は、本州中部の石灰岩地帯に局地的に産し、ツゲが食草であることを発見している。台湾で発見された一種もツゲを食うことがわかり、このグル-プの分布パタ-ンはツゲの天然分布と相関があることが明らかになった。 沖縄島と奄美大島の冬期の鱗翅類は、これまでほとんど調査されたことがなく、大変興知深いものが採集されている。そのなかには、ヒマラヤ系と考えられるものも少なからず、じっくりと研究を進めて行きたい。例えばヒマラヤハガタヨトウ(ヤガ科)は、ヒマラヤから中国大陸を経て台湾までが同一の亜種とされ、日本本土のものだけが別亜種と見なされてきているのであるが、奄美大島で採集したものは台湾のものに斑紋が似ており、もう一度、日本全体でヒマラヤハガタヨトウの変異傾向を調べる必要があると思われる。
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