研究概要 |
平成2年度に引き続き、ヒマラヤ系の鱗翅類が多く生息する照葉樹林で調査を行なった。平成3年6月に対馬で、平成3年9月に沖縄で、発電機を用いるライト・トラップで蛾を誘引・採集し、また、成虫から採卵したり、幼虫を探索し、寄主植物や生活史などの生態的知見も得ている。採集した蛾は乾燥標本にし、必要なデ-タを記した小型ラベルを付し、ドイツ型標本箱に入れ、昆虫標本戸棚に整理収納している。平成2年度のものも含め標本の作製を完了し、必要な解剖を行ない、国内外の近縁種と比較しながら分類学的検討を行なっている。 これまでの研究の成果としては、平成2年度に発表したクルマアツバ亜科のイワアツバ属(ヤガ科)のヒマラヤ北東部と日本および台湾の種の再検討(Owada.1991)のほか、台湾の山岳地帯にいるマダラガ科のAgalopeの再検討を行なった(Owada,1992).この属はヒマラヤから中国に1種が分布し、台湾からは従来3種が知られていたのであるが、ヒマラヤのものと同一種と考えられていたものが独立種と判明したほか、1新種を追加し、それぞれの類縁関係を推定した。この属は、日本分ウスバツバメ属と大変近縁で、属の系統関係と取り扱いについての問題点を指摘した。このほか、日本のクルマアツバ亜科の学名を整理したが(Owada,1992),インド・ヒマラヤ地域から古くに記載命名されたものを検討し、混乱した種の扱いを正した。 本年度の対馬の調査で、台湾の固有種のタイワンルリチラシ(マダラガ科)の対馬特産亜種とされていたものの雄を採集することができた。この標本を解剖して検討した結果、タイワンルリチラシとはまったく別の種で、ヒマラヤ地域から中国に分布する種に近縁であることが判明した。この分布パタ-ンはかなり特異なもので、現在投稿備準中である。
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