研究概要 |
平成3年度度に引き続き、ヒマラヤ系の鱗翅類が多く生息する照葉樹林で調査を行なった。平成4年5月に奄美大島と沖縄、平成4年7月に対馬、平成4年8月に三重県松阪市と海山町で、発電機を用いるライト・トラップで蛾を誘引・採集し、また、成虫から採卵したり、幼虫を探索し、寄主植物や生活史などの生態的知見も得ている。採集した蛾は乾燥標本にし、必要なデータを記した小型ラベルを付し、ドイツ型標本箱に入れ、昆虫標本戸棚に整理収納している。平成2、3年度のものも含め標本の作製を完了し、必要な解剖を行ない、国内外の近縁種と比較しながら分類学的検討を行なった。 平成3年度の対馬の調査で、台湾の固有種のタイワンルリチラシ(マダラガ科)の対馬特産亜種とされていたものの雄を採集し解剖して検討した結果、タイワンルリチラシとはまったく別の種で、ヒマラヤ地域から中国に分布する種に近縁であることが判明した。ヒマラヤ系の昆虫が、台湾や日本のような大陸の辺縁部で種分化を起こしたり遺存的に残存している例と考えられる(Owada & Horie,1992)。また、このガの幼生期を本年度の調査で解明しており近く公表する予定である。日本特産で1属1種とされていたヤガ科セダカモクメ亜科のHemiglaeaが、ネパールとインド東部に1新種、台湾に2新種分布することがわかり発表した(Owada,1993)。これも明らかにヒマラヤ系のもので、日本では北海道にまで分布を広げている稀なケースである。ショウジガ科(Ratardidae)はヒマラヤから東南アジア、台湾に分布するガであるが、標本はたいへん少なく、しかも雄が不明で分類学的所属をめぐって論議を呼んでいるものである。ドイツの昆虫学研究所所蔵のドクガ科とされていた台湾産の雄が本科のものと判明し、しかもヒマラヤまで広域に分布している可能性が明らかになった(Owada,1993)。
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