研究概要 |
層状チャ-トが放散虫などの珪質生物遺骸の集積によるものであることは疑いのない事実である。このことは層状チャ-トが深海底で形成され,海洋プレ-トの移動にともなって沈み込み帯で陸側に付加されたことを示唆している。つまり,現在日本列島の骨格をなす付加体のなかの層状チャ-トはすべて異地性であって,そのことは微化石による年代論的におよび古地磁気学的に証明されてきた。一方,地質学的な産状,すなわちブロック・イン・マトリックスとよばれる組織構造は,付加体形成過程の物理的条件を反映している。今年度は,野外において層状チャ-トが異地性のブロックとして産出することを確かめ,さらに顕微鏡下では層状チャ-トが著しく破砕され,一部にはマトリックスである泥質物がインジェクションしており,また他の部分では圧力溶解作用による縫合接触のあることを確かめた。こうした事実は,層状チャ-トがかなり高い圧力下にもちこまれたことを意味している。それは海洋プレ-トの沈み込み帯における現象をあらわしている。形成過程の条件を明らかにするために,関東山地の秩父帯北帯で見いだされた層状チャ-トのブロックをふくみ,かつ“高圧型"の変成鉱物クロッサイトをふくむ奇異な岩石・燐灰石ー黒雲母岩について,放射年代測定を行なった。分離した黒雲母のカリウム・アルゴン年代は,242Maと258Maであった。変成作用による緑泥石を一部ふくんでいるため,源岩の年代はこれよりも古い可能性があるが,周囲のマトリックスの泥質岩年代が放散虫化石によるとジュラ紀中期(180Ma前後)であるので,これらが整合一連のものではありえない。したがって,層状チャ-トは明らかに異地性で,その観点から付加体を検討する必要がある。
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