電子ビ-ムが薄膜試料を透過するとき、熱散漫散乱により透過率が温度に依存する。電子ビ-ム源として電子顕微鏡を用いれば試料像が観測でき、その高い空間分解能によりサブミクロン領域の電子ビ-ム透過率が計測できる。電顕下部にシンチレ-タと光電子増倍管を取り付けると透過ビ-ム強度を感度良く検出できる。以上のような原理で計測可能であるが、測定精度を上げて実用化するには色々解決すべき点がある。今年度はこれらの点について検討し、次の点を明らかにした。 i.多結晶薄膜について、温度と電子ビ-ム透過率の関係を熱電対の付いた試料加熱ホルダを利用して校正した。 ii.iの関係について、試料の厚さを直接測定しなくても常温での透過率を利用して温度を求める実験式を導出した。これについて、国際電子顕微鏡学会で発表した。 iii.試料を半導体レ-ザ-で局所加熱し、薄膜試料の温度分布を求め、蒸着薄膜の熱伝導率を求めた。たとえば、厚さ250nmのAI膜ではバルク材料の値の約40%であった。 iv.超高圧電子顕微鏡を利用してLSIアルミ配線中のアルミ結晶粒子の温度計測を試みた。一個の結晶粒子では、試料透過率の変化は温度変化だけでなく結晶ブラッグ条件の変化にも依存する。この対策として、電子ビ-ムを偏向移動させて数多くの点で透過率を測定し、そのヒストグラフを出すことによりブラッグ条件の影響を除去する方法を提案した。これについては、平成3年度日本電顕学会で発表予定である。
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