研究概要 |
スパッタ法,例えば直流マグネトロンスパッタ法,で作成される合金薄膜の組成は広い基板面積にわたってみるとしばしば不均一を呈するが,その原因として,スパッタ原子の放出角度分布が原子の種類によって異なることが重要であると考えられる。そこで,スパッタ原子の放出角度分布を調べるために,イオンビ-ムスパッタ装置を製作した。イオンガンには,最大加速電圧2KVのものを用いた。この装置を使い,LSIの配線に用いられるモリブンシリサイドのタ-ゲットに,エネルギ-500eV,直径約5mmのArイオンビ-ムを照射し,照射部分を取り囲むように配置した10枚の5mm角の硝子基板の上に厚さ数nmの膜を堆積した。膜中の単位面積当りのMoとSi原子の数をRBS法で測定することによって,スパッタ原子の放出角度分布を求めた。その結果,Moはタ-ゲット面に対し斜め約45度の方向に放出されやすいこと,また,SiはMoに比較して垂直方向に放出されやすいことが分かった。さらに,得られた角度分布に基づき,マグネトロンスパッタ装置によって作成されるモリブデンシサイド薄膜の組成分布を計算した。計算はタ-ゲットと基板間の距離やタ-ゲットのエロ-ジョンの分布を様々に変えた場合について行ったが,その結果は実験結果とほぼ一致した。以上の結果から,モリブデンシリサイド薄膜の組成不均一は,スパッタ原子の放出角度分布がMoとSiで違うことによって引き起こされることが明かになった。今後,タングステンシリサイドとチタンシリサイドについても同様の検討を行う。
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