研究概要 |
摩擦摩耗の軽減に寄与しているエンジン油は,酸化,熱分解,汚染および添加剤の消耗等により徐々に劣化して行く.本研究は,このようなエンジン油の劣化がその摩耗防止性能に及ぼす変化を明らかにすることを目的にした.ガソリンエンジン中での使用によって劣化した油,劣化生成物と考えられる過酸化物・脂肪酸・水を添加したモデル劣化油などの中で,鋼と窒化けい素の摩擦摩耗試験を行ない,以下に示すような結果を得た. (1)エンジン油の摩耗防止性能は,ガソリンエンジン中での劣化によって大幅に変化する. (2)全酸価の初期値からの増加は,鋼の摩耗量と明確な相関を示す.全酸価の増加に伴って,鋼の摩耗はまずわずかな減少を示したのち急激に増大する. (3)モデル劣化油は,酸等のわずかな添加によっては鋼の摩耗を軽減するが,多量に添加すると摩耗を増大させる.この傾向は,劣化エンジン油について見られた結果と共通している. (4)メタノ-ルの燃焼成生物である蟻酸の影響は,高級脂肪酸の影響と定性的には同じであるが、摩耗量の変化はより低濃度で生ずる。 (5)モデル劣化油が窒化けい素の摩耗に及ぼす影響は,水による極端な摩耗増大を除くと,鋼の場合と同様である. (6)水が存在すると,窒化けい素は低速/高荷重の高摩擦・高摩耗率の領域と高速/低荷重の低摩擦・低摩耗率の領域を生じ,その間の遷移条件は水の存在形態によって異なる.
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