研究概要 |
血液に代表される生体の冷凍保存技術の問題点として指摘されている凍害発生について、その機構を基礎的な観点から研究する目的で、マクロな生体膜を模擬した,一枚の人工膜で仕切られたセル内での濃度の異なる水溶液が凍結過程において混合する様子を観察し,膜の存在が果す役割について考察した。半割の矩形セルで、その中央,鉛直に膜を挟んだ試料容器を左右両側面から冷却し,水平面内の温度分布を櫛形に並べた7本のシ-ス熱電対を使って測定し,冷凍曲線を20%食塩水・蒸留水の組合せ,20%庶糖水溶液・蒸留水の組合せについて得た。その結果、人工膜として採用したセロハン膜が存在するセル内の凍結は、人工膜の代りに金属薄板で仕切った場合と比べて,樹状氷晶の発生が抑制され、過冷却現象が起りにくいことが判った。さらに、本研究で改良された光ファイバを加工した濃度センサを使って、セル中央、鉛直方向の濃度分布と温度分布の同時測定を、測定開始からの時刻7分,28分,45分の場合について行った。それによると,セロハン境界膜を通して,水力学的透過と拡散的透過によって移動した塩分(媒質)あるいは水(溶媒)はセル内に一様に混合するのでなくて,密度成層を形成することが分った。さらに凍結過程においては、濃溶液側セルの鉛直濃度分布曲線は,階段状の分布を形成することが示され、同時に観測したシャドウグラフの可視化によっても数本の水平な明暗の縞として観察され、濃溶液側に二重拡散による対流層の存在が確認された。この対流層の存在するセル上部の温度は直線的な降下を示し,階段状濃度に対応する温度変化は観測できなかった。対流層は時間とともに、その厚さを合体によって変化していくことが測定結果の分析から分った。
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