研究概要 |
生体の冷凍保存技術において問題となる凍害発生,細胞損傷のメカニズムを解明する目的の一環として、マクロな生体膜を模擬した、一枚の人工膜で仕切られたセル内での濃度の異なる水溶液が冷凍過程において物質移動する様子を観察し,膜の存在が果す役割について考察した。半割の矩形セルで,その中央,鉛直に膜を挟んだ試料容器を左右両側面から冷却し,水平面内の温度分布を櫛形に並べた7本のシ-ス熱電対を使って測定し,冷凍曲線を20%食塩水・蒸留水の組合せについて調べた。 本年度は特に,光ファイバ濃度センサを農水溶液冷却面からの距離,11.4mm,15.9mmの濃溶液側,18.9mm,26.4mm,34.5mmを淡溶液側とした5ヶ所の位置での鉛直方向の濃度及び温度分布を詳しく測定した。その結果,熱電対のrakeを使って求めた冷凍曲線によると,濃溶液側では水平面内に温度勾配が発生している。これに対して淡溶液側の温度は水平面内で一様に変化する事実が見い出されているが、この理由はまだ説明されていない。鉛直方向の濃度と温度の測定結果によると、濃溶液側では、膜の近くでセル中央でも液面に近づくにつれて淡くなる傾向は変わらないが,膜の近くの鉛直下方部では濃度の変動が大きい。これは、境界膜では水力学的透過と拡散的透過によって発生する物質移動が両者一様に分布した活生部で起るのではなく,水が浸透圧で入ってくる領域、濃塩水が拡散によって出ていく領域とに分離されることによると考えられている。淡溶液側の濃度は膜近くになるにつれて次第に高くなり,鉛直方向の濃度変化は,時間とともに下方部が懸垂曲線に似た分布を示し、最終的には直線的濃度分布を示す安定層を形成することが分った。また冷却速度を増加させると、膜を通過する塩分の移動量も冷却速度に比例して増加し二重拡散層も顕著になることも明らかになり、塩害の機構を解明する手掛を得た。
|