研究概要 |
本年度においては,塩化アンモニウム水溶液を使用して,従来明かでない,冷却面の姿勢と形状,冷却面温度,および水溶液の初期濃度が凝固形態に及ぼす影響を系統的な実験によって調べた.その結果を要約すると次の通りである.(1)水溶液の初期濃度Coが共晶濃度Ce(=19.7%)より小さい場合は,凝固の発達とともに重い溶質が液相内に排出されるため,横向き冷却面上の凝固では,下部に高濃度領域が形成され,凝固遅れや凝固層の再融解が観察された.特に,上下部に伝熱促進用の黄銅板を有する場合は下部黄銅板上の凝固はほとんど観察されなかった.(2)Co<Ceの場合,上向き冷却面上に生じるデンドライト領域は横向き冷却面上のそれよりかなり疎となった.特にこの傾向は黄銅板付き冷却面で顕著であった.また,下向き伝熱面上の凝固では,凝固の進展で排出された溶質は下部に沈降し,凝固状態に何ら影響を与えず,冷却面上には非常に密なデンドライト層が発達した.(4)Co>Ceに対しては,凝固に伴って低濃度の溶液が排出されるため,横向き冷却面および下向き冷却面では,一旦冷却面に形成された結晶が濃度対流および熱対流のために剥離し液相内に浮遊した.(5)Co>Ceで上向き冷却面の場合は,凝固に伴って下部に低濃度溶液が蓄積し,濃度分布が不安定になり,固液共存相と液相の界面に疎らに分布する火山状の突起が観察された.その突起の先端からは濃度プル-ムがでており,また固液共存相の内部にはこの突起につながるチャンネルが観察された. 次に,従来解析が行われていない,Co>Ceで上向き冷却面の場合に対し,エンタルピ法に基づく数値シミュレ-ションを行い,濃度不安定による対流や相界面が不規則となるなどの実験結果をほぼ再現できた.しかし,収束が非常に遅いなどの問題があるので,効率の良いシミュレ-ションが可能になるように,来年度プログラムを改良する予定である.
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