フランスの高速増殖炉ス-パフェニックス1号炉で観察された溢流によって発生する堰の自励振動について研究を行なった。まず実験室規模で、現象を再現することに努めた。具体的には、ステンレス製の薄肉同心多重円筒堰で仕切られた円筒形水槽とアルミ製の薄肉平板堰で仕切られた矩形水槽の2種類の実験装置を製作し、流量と落下高さをパラメ-タとして振動の発生条件を探るための実験を行なった。円筒形水槽ではスロッシングモ-ドの発生は確認できたが、流力弾性振動モ-ドの発生は確認できなかった。また、矩形水槽ではスロッシングモ-ドと流力弾性振動モ-ドの両方の発生を確認することができた。特に矩形水槽においては、同一流量のもとで、流力弾性振動モ-ドからスロッシングモ-ドに移行する場合が観察された。また、理論的な研究では、自由液面と円筒堰を連続体として扱う一段階前のモデルとして、自由液面の振動を耐震設計で用いられるハウスナ-モデルで置き換えて(すなわち、矩形水槽の中心に節が一つだけ現われる対称一次モ-ドを等価なバネ-マスモデルで置き換えて)、スロッシングモ-ドの解析を行なった。さらにより厳密な理論を構築するために、自由液面の運動と堰の変形を連続体として取り扱った理論を構築し解析を行なった。具体的には、タンク内部の液体の運動を記述するためにポテンシャル理論を適用し、溢流によって生じる流体力を運動量理論によって算出し、流量の連続の関係式と下流タンクのスロッシングの運動方程式を連立させて、不安定振動の発生条件式を導くことに成功した。その結果、自励振動の発生振動数は、下流タンクのスロッシングの1次固有振動数に等しいこと、ある範囲の落下高さの時に自励振動が発生すること、流量が多くなるほど自励振動が発生する落下高さの幅が狭くなることが明らかになった。結果は計算結果とよく一致し、理論の妥当性が検証された。
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