本研究の目的は、負荷側の要求に自由に応じることのできる、誘導電圧の非干渉重畳を利用した高電圧矩形パルス電源の特性、およびこの電源を用いた磁気絶縁型電子銃により生成される円筒形大強度相対論的電子ビームの特性を研究することである。本年度は主に電子ビームの発生実験が行われ、以下のような成果が得られた。 プラスチックシンチレータにより、ビーム断面形状の観測を行い、円筒形電子ビームが得られることを確認した。ついで、陰極材料として、カーボンあるいは黄銅を用い、両者の特性比較を行った。その結果、黄銅電極では得られる電流値が非常に低く、再現性も悪かった。これに対し、カーボン電極を用いた場合には、得られたビーム電流値が高く、エネルギー100keV、電流値100A、パルス幅500nsの電子ビームが得られた。これは、カーボン電極にはウイスカーが多数存在し、放電によってこれが失われることがないためであると考えられる。さらに、発生ビーム電流値は磁気絶縁用およびガイド用の軸方向磁界分布に依存するが、電子の粒子軌道シミュレーションによりその依存性の原因を確認した。すなわち、これらの磁界強度の組合せが不適当な場合には、電子は陽極、あるいはドリフト管に衝突する。また、粒子軌道シミュレーションおよび理論計算から得られるビーム電流値は実測よりも大きい。これは、ダイオード部での粒子衝突とともに、何らかの不安定性がビームの生成に影響を与えているためであると思われる。この不安定性の同定は今後の課題である。 本研究により、誘導電圧の非干渉重畳の有用性および電子ビームの単色性の向上への応用の可能性が確認された。
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