研究概要 |
磁気ヘッドの性能を改善するため大きな飽和磁化を持つ軟磁性膜の開発が望まれている。本研究では3T近くの極めて大きな飽和磁化を持つもののその合成が困難なため、実用化されていない窒化鉄の薄膜をイオンを直接基板上に堆積させる方法により合成し、その薄膜ヘッドへの応用の可能性を検討するものである。以下に本年度の研究成果を示す。 (1)申請者らが開発した対向タ-ゲット式スパッタ形プラズマ源から取り出せるイオン電流密度を増加させる方法を検討し、引き出し電極の電位を調節することで基板上での入射イオン電流密度2mA/cm^2,エネルギ-半値幅10eVのイオンの堆積が実現できるようになった。 (2)基板入射イオンのエネルギ-が増すにつれて、さらにイオン電流密度が増すにつれて膜の結晶粒は微細化してゆき、入射イオンが結晶粒の成長を抑制する効果があることが確かめられた。 (3)膜中に含まれる窒素含有量はイオンのエネルギ-が10〜20eV付近で最大となること、膜中の窒素含有量が10at%付近で最も良好な軟磁性膜が得られること、これらの膜は非晶質に近い構造を持ち、保磁力0.8Oe以下,飽和磁化1700emu/cc,透磁率【approximately equal】3000の磁気特 (4)これらの膜の熱的安定性は不充分で、300℃以上で軟磁気特性の著しい劣化が生ずる。この熱的安定性を改善するため、SiーN層との多層化及びFe層中へのNb,Mo,Zr,Taの微量添加を検討した。その結果、SiーN層とFeーN層との多層構造は熱的安定性に優れており、特に、FeーN層中にTaまたはZrを微量添加した多層膜は600℃程度の高温でも結晶粒の成長が抑制され、良好な軟磁気特性が保持されることが明らかとなった。 今後さらに大電流密度が得られるようにプラズマ源を改良するとともに、GaAs基板上へのエピタキシャル成長を試みる予定である。
|