研究概要 |
磁気ヘッドの性能を改善し、記録密度の向上を実現するためには大きな飽和磁化を持つ軟磁性膜の開発が必要・不可欠である。本研究では申請者らが開発した対向タ-ゲット式スパッタ形プラズマ源を用いて磁気ヘッド用軟磁性膜として注目を集めている窒化鉄薄膜の合成を試みた。 使用したプラズマ源では基板への入射イオン密度0.1 mA/cm^2,エネルギ-半値幅約30eVのイオンビ-ムの堆積が可能であった。基板入射イオンのエネルギ-を増加させていくと、結晶粒の成長が抑制され、さらに入射イオン量を減少させると結晶粒の成長が促進されることが明らかとなった。このとき、堆積粒子中に占めるイオンの割合は約30%と考えられた。このように本研究で用いた膜堆積法では結晶粒の成長が抑制され、結果として軟磁気特性に優れた大きな飽和磁化を持つ窒化鉄薄膜が容易に得られるものの、巨大飽和磁化を持つFe_<16> N_2相単相の膜は得ることができなかった。 一方、熱的安定性を改善するためZr,Nb,MoおよびTuを微量添加した多層膜を作製し、その構造と磁気特性を調べた。その結果、熱的に安定な非晶質の窒化物が形成されるTaおよびZrの添加は、結晶粒の微細化と熱的安定性の改善に有効で、500℃以上の温度でも軟磁気特性の損なわれない膜が得られるが、低温でも結晶化した窒化物が形成されるNbやMoの添加は400℃以下の温度でも結晶粒の成長が起こり、軟磁気特性が著しく損なわれてしまうことがわかった。 今後、より大きなイオン密度が取れ、かつエネルギ-半値幅が小さなプラズマ源の開発を進めるとともに、エピタキシャル成長へのイオンの役割の解明や極低温基板上への膜の堆積などを通して、巨大飽和磁化Fe_<16> N_2薄膜の作製技術の開発を行なう予定である。
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