研究概要 |
弾性の特性を有するチューブ内を音波が伝搬すると音の圧力によって壁面振動が生じ,速度分散が現われる。特に音の周波数と壁面振動周波数が一致するようなときには強い音波吸収が見られる。一方,音波の振幅が大きくなると空気,水といった弾性媒質の非線形性によって波形は伝搬とともに著しく歪む。速度分散性と非線形性の競合作甲,特に音波パルスの孤立化の実現性を問うため,本研究では以下のような理論展開と実験を行った。理論においてはまず高次モードがないとしてチューブ内を平面波が伝搬するとした。またチューブの壁面振動は音圧に対して局所作用し,3つの機械素子,即ち質量,コンプライアンス,機械抵抗の単一共振系でモデル化できることを仮定した。このような仮定で空気の非線形性を考慮して波動方程式を導いた。この式を解析的に解くことは困難であるので,差分法に基づく数値計算法を開発した。なお,共振周波数より十分低い駆動音波ではBurgers-Korteweg-de-Vriesの式になることが分った。実験は内径25mm,厚さ4mm,内径12mm,厚さ2mmのシリコーンチューブを用いた。正弦波駆動及びパルス音波駆動を行い,任意の位置で波形を観測し,理論計算と比較した。その結果両者はよく一致した。非線形性により発生する高調波は独自の速度で伝搬するため,ある周波数成分の伝搬特性に強いビート現象が現われることが明らかにされた。共振周波数付近では音波エネルギーの損失はあるものの,分散性を利用すると衝撃波の発生を弱めることができ,アルミパイプといった剛管内よりも一層大きな振幅の音を送ることができる。
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