本研究では、聴覚神経の電気刺激による人工聴覚について、多重チャネルの電極の最も進んだ方式を取り上げ、音響的な情報のうちでも、とくに言語情報を対象として、それを最も有効に伝達できるような音声信号の処理方法を提案し、計算機シミュレ-ションと聴覚心理的実験によって、その有効性を確認することを目的としている。 このために、第1年度(平成2年度)は、今後の電極の技術の進歩も想定して、音響的な信号に含まれる各種の情報要素が、それらの電極によって伝達され得る限界を、音響分析的および聴覚心理的な理論に基ずいて考察した。とくに、そのための前提として、音声の分類・表記について、人工聴覚を読唇と併用した場合の音声知覚の特性を、両者の相補関係に注目して詳細に分析できるような方法を提案した。 この結果を踏まえて、第2年度(平成3年度)は、人工内耳の電極と音声信号処理回路の理論的な性質や、装置の調節状態や、使用者の個々の聴力特性・読唇能力なども考慮して、理論的な情報伝達の限界の範囲内で、言語情報が最も有効に伝達されるように、音声信号を処理する方法を検討した。この過程では、とくに、音声の情報伝達要素で、音声信号の周波数スペクトルの次元ではなく、波形の次元で、できるだけ強調されるような処理方法を主体にして、日本語を例にとって具体的な音声を当てはめて、考察を進めている。 また、これらの方式の理論的な考察の参考にするために、既存の人工聴覚の方式を使用している患者の音声聴取能力の特性について、国内外の測定デ-タを収集して、相互の結果を照合している。 さらに、これらの人工聴覚や読唇の補助となる可能性のある、触覚を通しての言語情報伝達の特性についても、並行して検討を始めた。
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