本研究は、低降伏比60キロ級鋼を用いた鉄骨造ラ-メン構造が激震を受ける場合を想定して、その柱梁溶接接合部の耐力、変形性能を実験的に明らかにしようとするものである。本研究では特に、接合部の力学的特性を材料の極低サイクル疲労破壊現象に着目して整理する手法を採用している。 平成2年度の研究においては、梁、柱ともにH形断面材からなる十字型分解架構試験体を製作し、仕口パネルの降伏比を約0.7に設定して柱軸力比0と0.2の一定の条件で繰返し載荷実験を行った。 平成3年度の研究では、試験体の柱軸力比を0と0.2の2種類に限定し、また、架構の応答特性に大きく影響する仕口パネルの降伏比を高めた十字型分解架構試験体合計2本について、梁先端変位一定振幅の下で疲労破壊実験を終了した。昨年度に実験を終了した弱パネルタイプの実験結果とともに、この高張力鋼を用いた柱梁仕口部の低サイクル疲労特性について検討を加えた。本年度の研究で得られた主な知見は以下の通りである。 1.低降伏比60キロ級鋼を用いた柱梁接合部の力学的特性の一般的な傾向として、従来の50キロ級鋼接合部の力学的特性と比較して特に大きな遜色はなく、耐震安全上充分な塑性変形能力が期待できると考えられる。 2.破壊は一定数の繰返しの後に梁端フランジ溶接接合部の脆性的破断で決まる場合と、スカラップ始端部に発生した亀裂の拡大・進展に伴って、いわゆる極低サイクル疲労破壊を呈する場合との2つに大別されることから、本鋼材に対する最適な溶接施工条件と鋼材の化学成分に関するより詳細な検討が今後必要と考えられる。 3.2の結論については、筆者らが行った同鋼種の他の実験においても観察されているが、破壊性状の違いは主として載荷条件の違いに起因する所が大であると考えられるため、この点について今後の研究が必要であると考えられる。
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