本研究の目的はコンピュ-タ-制御を導入した舞台機構を持つ劇場において、ある一つの公演が行われるためには、舞台装置や照明機材などの搬入から仕込、稽古、公演にいたる過程で、舞台上での作業がいかに行われ、そのために舞台機構がいかに運転されるか、そのときコンピュ-タ-制御がいかに機能しているかを把握し、今後の舞台機構制御システムの構築の一助とすることにある。 上記目的のため、本研究では、青山劇場において3つの異なる演目を選んで、その実態調査を行った。調査対象は劇場側との調整の結果、1)ミュ-ジカル「ぼくのシンデレラ」(1990年8月5日〜10日)、2)バレエ「バレエ・ブリティッシュ・コロンビア」(9月26日〜28日)、3)ミュ-ジカル「龍の子太郎」(10月28日〜11月3日)を選択し、延べ16日間の調査を実施した。調査方法は、舞台機構操作室、及び舞台に対して、ビデオによる定点連続観測を行い、そこで得られる各種の作業量及びその内容の分析をする方法と、何らかの作業が行われるごとに、その内容と場所と時刻を観察者がシ-トに記録し、それを持ち帰り分析する方法を併用した。分析は、舞台作業については1)時間軸上における各種の舞台作業の進行状況のグラフ化、2)2時間間隔での仕込作業の舞台空間専有の状況の作図化、そして、舞台操作室における機構制御操作の実態については、1)各機構の時系列上の位置や速度の変化のグラフ化、2)操作員が各種の操作釦を押して作業をする頻度や種類の統計処理等の方法で行った。これらの作業の結果、例えば、コンピュ-タ-制御化されても、速度や停止位置等の運転デ-タ-がメモリ-されるまでには相当量のマニュアル運転が必要とされる点や、デ-タ-の入力作業が過酷な時間制限のなかで行われ、操作員に大きな負担を強いている状況等が把握され、今後の舞台機構制御技術の向上に有効な諸知見が得られた。
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