研究概要 |
まず 高強度低速陽電子ビ-ムの開発を行った。100MeVの電子により発生した対生成の陽電子を低速化して利用する。モデレ-タ-から発生した低速陽電子は60〜80ガウスの磁場により2mの壁をへだてた実験室へ転送される。磁場による転送の最終段に磁場から静電場への変換を行なう。次にこの低速陽電子ビ-ムを利用し、高反射陽電子散乱(RHEPD)の実験を行なった。Si(III)の試料を真空中で1000度に焼鈍した表面に5kevのエネルギ-の陽電子ビ-ムを(110)から入射した。この実験により、Si(III)の初めてのRHEPDパタ-ンを測定できた。特に0/7ラウエ・ゾ-ンに対応するスポットが観測された。さらに酸化物層及びHfーCu金属多層膜の低速陽電子ビ-ムによる実験を行った。酸化物層,HfーCu金属多層膜[Hf55Å/Cn55Å]50層,[Hf250Å/Cn250Å]10層,及び[Hf1000Å/Cn1000Å]5層の多層膜を作製した。この試料に対し、低速陽電子ビ-ムにより 層の深さ方向の格子欠陥分布の測定を試みた。3種の多層膜における低速陽電子入射エネルギ-に対するSパラメ-タ-の特徴は次のようになった。低エネルギ-領域のSパラメ-タ-の減少は、酸化物層によるものと考えられる。各層の厚さ1000Åの,2000Åの2〜3KeVにおける比較的高いSパラメ-タ-の値は,第1Hf層の効果と考えられる。また2000Åの場合、この値は1.5〜4KeVにかけてほとんど一定であることから熱活性化された陽電子のモビリティがHf層内で非常に小さいことがわかる。さらに定量的な議論をするため、各入射エネルギ-ごとに低速陽電子のストッピング・プロファイルを計算し、それをもとにSパラメ-タ-を評価し、実験値との比較を行なった。
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